揺れるタイ、もたつく3G携帯 クーデター余波、事業入札が白紙

アジアの経済成長エンジンとして期待されるメコン5カ国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナム)の中で屈指の経済力をもつタイが、携帯電話事 業でもたついている。動画配信や国際通話などの高付加価値機能に欠かせず、いまや世界の潮流となった第3世代(3G)移動通信システムの本格導入に踏みき れていない。ベトナムやラオス、ミャンマーはすでに3G時代を迎えており、タイは携帯電話で近隣諸国に後れをとった格好だ。

タイで3Gの導入が遅れているのは、政治情勢が大きく影響している。2006年9月に発生した軍事クーデターにより、通信事業の許認可権をもつ政府機関に“異変”が生じた。

携帯電話事業者に与える3G免許について、当初、国家通信委員会(NTC)が10年9月20日に入札を行うことになっていた。ところが、通信事業者の国 営CATテレコムが、NTCには入札権限がないとして提訴、同23日にタイ最高行政裁判所が同委員会による入札差し止めの最終判決を下した。3G免許の入 札が白紙に戻ったわけだ。

NTCは、1997年憲法に基づいて04年10月に設立された。だが97年憲法は06年の軍事クーデターで失効し、07年の新憲法に基づき、NTCは国 家放送通信委員会(NBTC)が新設されるまでの暫定機関となった。これが、NTCには3G入札の権限がないとCATテレコムが主張した根拠だ。

国営タイ通信によると、ゴーン財務相は最高行政裁判所の判決を受けて、「3G入札の差し止めは、タイ経済にマイナスの影響を及ぼすだろう」と懸念を表明 した。また、バンコク・ポストによると、タイ工業連盟のパユングサク会長も「入札中止でタイは外国投資家の信頼を失った可能性がある。タイへの投資には法 的な壁があるとのメッセージを外国人投資家に発信してしまったからだ」と述べた。

現地紙ネーションによれば、タイの携帯電話普及率は今年6月までに100%を超えた。

タイ国内の携帯電話機市場は、韓国のサムスン、フィンランドのノキアが大きなシェアを持つ。タイや中国製の安い機種も多く出回っているが、付加価値の高い機種となると外国製がほとんどを占める。

3Gへの移行で足踏みをしている間に、データ通信機能が得意な日本メーカーにも売り込みのチャンスがありそうだ。ちなみに、NBTCはいまだ発足に至っていない。(シンガポール支局)