【北京=矢板明夫】中国当局は、中国とベトナムがともに領有権を主張する南シナ海の西沙(パラセル)諸島への観光を推進する方針を固め、準備作業を始め た。同島に対する中国の主権をアピールする狙いがある。事業が成功すれば、同じく領有権を主張する沖縄県の尖閣諸島(中国名、釣魚島)にも事業の適用範囲 を広げる可能性がある。
中国国家観光局の王志発副局長が7日、中国メディアの取材に対し、同局は現在、海南省政府とともに西沙諸島の観光事業を積極的に推進していると明らかに した。その理由について「西沙諸島への観光は、わが国の主権をアピールする目的があり、南海(南シナ海)にあるほかの島嶼(とうしょ)の問題解決にも利す る」と語った。王副局長がいう「ほかの島嶼」はマレーシア、フィリピン、ベトナム、ブルネイなどが領有権を主張する南沙(スプラトリー)諸島を指すとみら れる。
西沙諸島は1974年1月に中国海軍と南ベトナム軍の間で激しい武力衝突が起きた場所。それ以降、中国が実効支配を続けているが、近年、ベトナムが同諸 島への領有権を国際社会にアピールする機会が増えている。同諸島への「観光開発を進めることを通じて領有権をアピールすべきだ」との主張は数年前から中国 のインターネットでよく見られた意見だが、中央政府の担当高官が言及するのは初めてだ。
中国はこれまで、領有権争いのある島嶼などについては「争議を棚上げにして共同開発する」と主張してきた。民間の漁船が該当地域周辺に入ることに対し「事態を複雑化させる」ことなどを理由に原則的に反対する立場をとってきた。
今回の観光事業推進の決定は、同諸島へ国内の観光客を大勢入れることで実効支配を強化しようとの思惑があるとみられる。しかし、中国が東南アジア諸国と の間で署名した「各国が自制し、平和と安定に影響を及ぼす行為をしない」を原則とする「南シナ海行動宣言」に違反する可能性があり、ベトナムから猛反発を 受けることは必至だ。