「中国の平和的台頭」という幻想

8月23日付ウェブNational Interestで、Vikram Nehru米カーネギー平和財団主任研究員は、南シナ海の緊張は、やがてエスカレートして衝突経路に入っていく可能性が強いが、現在、インドネシア外相が 行っている中国、ベトナム、フィリピンとのシャトル外交が成果を上げるか否かが注目される、と論じています。

 すなわち、南シナ海の緊張・対立は、中国、ASEAN、米国を含む環太平洋諸国のいずれにとっても利益にならないものである。したがって、関係国間の信頼関係を如何に構築するかが課題である。

 中国のSpratly島とParacel島とそれら接続水域における領有権の主張は、ASEANの国々の主張と重複している。なかでも、中国とフィリピンの間のスカーボロー礁、中国とベトナムの間の海底石油開発をめぐる対立は根が深い。

 その後、インドネシアのナタレガワ外相による精力的なシャトル外交の結果、行動指針と海洋法に基づく6点の原則が確認されたが、まだそれらは共同声明としては発出されていない。

 他方、中国は三沙市(1.5キロの島)を設置して人民解放軍を駐屯させ、監視、防衛にあたらせる。このような中国の南シナ海での行動は中国のイメージと影響力を大きく損ねた。

 次期首相と目される李克強の言う「中国の平和的台頭」という表現は、東南アジアの国々から見ると、中国の現実の行動に合致していない。

 インドネシア外相の3カ国歴訪は多数国間のアプローチを忌避する中国をも満足させるものではあるが、関係国自身が解決の努力をしなければ、意味がないだろう、と述べています。

 * * *

 上記論評は、カンボジアでのASEAN首脳会議が南シナ海についての合意達成に失敗した後、インドネシアによる妥協策の模索が続いていることを紹介しています。

 南シナ海の問題をめぐっては、中国はあくまでも東南アジア諸国の各個撃破のアプローチに固執しており、特に、米国が入った多数国間の解決策に反対してい ます。インドネシアによる斡旋努力も、米国を抜きにした形のものに留まる限り、この海域の安定的秩序を創り出すことはできず、一時的な妥協に終わる公算が 強いと思われます。

 李克強は、中国の外交政策の支柱は、各国との協力のもと、「平和的に台頭する」ことですが、最近の三沙市の設置に見られるように、その台頭が「軍事的裏付けのある台頭」を意味していることは明白でしょう。

著者:岡崎研究所

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